2012/12/13
黄色いふわふわ ※未完
「なんだ……これ……」
気づいた瞬間に声に出していた。
黄色いふわふわとした物体が部屋の机の上にある小さな段ボール箱から見えた。
近づいてよく見ると、丸くなってうずくまっているひよこだった。
真っ黄色のもふもふした様子は愛らしかったが、誰がこのようなものをここに置いたのかがわからない。
ひよこといえばピヨピヨと鳴いて、動き回っているイメージなのだけれど、そのひよこはじっと目をつむってじっとしている。
かわいいといえばかわいい。いや、確実にかわいいのだけれど、ひよこがなぜここにいるのかがわからない。
「おい平太。このひよこ……、どうしたんだ?」
対面式キッチンで洗い物をしている息子に尋ねる。
今年十歳になる自慢の息子である。器量よしでよく気が付き、成績もよく、こうやって家事の手伝いも積極的にやってくれる。 目に入れても痛くない、とはまさにこのことだ。
「お父さん、それね、今日、学校の帰りに、貰ったの」
にこっと微笑みながら答えてくれる。
『マジ天使』と心のなかで思ったが声には出さず、
「貰った? 誰に?」
と冷静に答えたが、心中穏やかではない。先の通り、平太は目に入れても痛くないほどの可愛さである。その可愛さに目が眩んで不埒なことを考える輩がいても何らおかしくはない。いや、絶対にいる。毎日気がきではないので、GPS機能付き携帯電話も持たせているし、帰り際にはメールの交換もしている。今のところ間違いは起きていないがいつ起きてもおかしくないのだ。
「知らないお兄さん」
「お、お兄さん?」
「名前は聞いたけど教えてくれなかった」
怪しいじゃないか、怪しいじゃないか。事件の匂いがプンプンする。このひよこには何か仕込まれていて、平太をどうこうしようとする策略ではないのか、いや、もしかしたら……いやいや、冷静になれ。ここはもう少し詳しく聞こうじゃないか。
「知らない人からモノを貰っちゃダメだろう?」
「そうなんだけど……、そのお兄さん困ってたみたいだし……」
「困る……?」
「ひよこが増えすぎて困ってるんだって。だから……」
少し要領を得ないが、ひよこが増えすぎて困ってる男を助けるためにひよこを貰った、と。優しい平太に付け込む作戦か。しかし、特に危ないことがあったわけではないようだし、ここで叱るのはよくないだろう。
「僕も怪しいと思ったからどうしようかと思ったんだけど、そのひよこかわいかったから……」
そう言って笑う平太のほうがかわいい。ひよこと並べてしまいたい。
「飼っていいでしょ?」
そう言われて、「ダメだ」と言えるような親じゃないことは一番自分が知っている。
「飼い方とかわかるのか?」
「調べる! 大きくなったらにわとりになるんだよね? コケコッコーって鳴くんだよね?」
可愛すぎる……。可愛すぎる。
「ひよこは寒さに弱いはずだからとりあえずはその準備だな」
「うん!」
子どもがひよこを飼う。そのかわいさに目が眩みそうになったがなんとか持ちこたえて、命の大切さを知る機会にもなるだろうし、親鳥になったつもりで一緒に面倒を見よう。
黄色いふわふわが大きい成鳥になるまで。