【大土井】 衝動 ※未完

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:僕と月 制限時間:1時間 文字数:1189字


 月は忍にとって敵である。また逆に味方でもある。

 月光に照らされればあわや居場所を知らせてしまうが月の角度で刻がわかる。

 新月の日は闇夜に紛れられるが刻を知る手段を持ち得なければ月光以上に身を危険に晒してしまう。

 ただこんな満月の夜は月にも映える貴方の笑顔に逢いたいものだと夜を駆ける。

 忙しい身ならずも私情に動かされ唐突に闇を駆けるなど忍ぶものとしては情けないことこの上ないのだが、今宵の月を共に見たいと突き動かされる。


 早足で五里半の道を駆け抜け、気づけば杭瀬村の月桂に光る水田を目にしていた。
 こんな姿を見せては呆れられるだろうか。それとも何も言わずに背中を向けるだろうか。
 今更ながらに軽率すぎる自分の行動に呆れる。朝までには帰らねばならぬというのに。


 既に夜五つだろうか。寝ている時分ではないだろうが、もう既に仕事は終えられているだろう。
 目指していた一軒の家が目の前にある。
 忍び込むべきだろうか、それとも正面から入るべきだろうか。ここまで来てそんな下らないことで悩むのはこの人だからだ。

「ん? 誰か居るのか?」
 逡巡していると内側から声をかけられてしまった。特に気配を隠していたわけではないのでこの人相手に気取られないわけがないが、ここまで来ては腹を括るしかない。

「済みません。私です」
 そう言うと、正々堂々と玄関から土間へと入る。

「半助か。どうした?」
 突然訪ねては迷惑だろうかと考えていたが、当の本人は土間から続く板の間に直接酒を置いて手酌で一杯やっていたようで上機嫌だ。

「済みません。大木先生、突然に……」

「なぁに。お前が来るときはいつも突然だろうが……。忙しい身ならば仕方がないが知らせで来たことなどないだろう」

 そうだ。私がいつも大木先生に唐突に逢いたくなって突然押しかけているのだ。そして大抵は何も言わずに抱きとめてくれる。たまに出かけられていて待ちぼうけを食らわされたり、そのまま寂しさを持て余し帰路につくこともあるが、それでも大木先生の匂いが残る杭瀬村に立ち寄るだけで満足できた。

「何を突っ立てる。今宵はいい満月だ。格子窓から見える月も肴になろうて」

 大木先生の声に導かれるように足についた泥を落とし、板の間に胡座をかく彼の目の前に正座する。

「何を遠慮している。其処からでは月も見えんだろう。此方へ来い」
 大木先生はその隣を指差す。

「はい」
 その低い声は心地よく、既に半ば本懐は遂げたというような気持ちで操られるように隣へと移る。

「ふっ……。半助は儂の前では猫を被るのう。どうした。いつもの調子で喋ってみろ」

「いえ……決してそんなつもりは……」

「呑まないと本調子にならんか?」
 そう言いながら、彼が使っていたぐい呑を目の前に差し出してくる。


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