2018/12/31
東京
上條淳士作品については読まないという選択肢はそもそもないので「東京」ももちろん購入して拝読した。
内容に関しては帯に書かれている通り、2013年以降に描かれた新作・未発表イラストと過去の代表作各1話をトリプルトーン印刷でベタの塗り具合やトーンワークなど生原稿に近い形で再現されている。
これを見ると全部の作品をトリプルトーン印刷で発行してほしいと思ってしまうが、価格が大幅に上がってしまうだろうし、「完成品ではない」という印象を受ける人もいるだろうから、コレクターズアイテムとしてクラウドファンディング等で希望数だけ発行とかしてくれないだろうか……と思ってしまう。
そして必読のロングインタビュー。しかし私が年を取ったことが如実にわかる、本を遠めにしないと本文文字が老眼で読みづらいという事実。年をとって色々と嫌なことはあるけど、今の所一番イヤなのはこの老眼ですよね。小説とかも電子小説じゃないと文字の調整ができないから読みにくくて読みにくくて……。
東京というと私にとっては東の京(みやこ)というイメージが未だに強く、そういう意味では私はやっぱり関西の人間なんだなと思うし、東京が故郷になることはないのだなと思う。
京都というと変わらないことを美徳としているところがあるが、東京は変わることを美徳としているわけではなく、変わらざるを得ない状況に置かれることこそが東京が日本の首都であるという動かしがたい事実であるのだろうと思う。
さて、私にとっては憧れでも故郷でもない東京だが、それは身近に神戸があったからだろうし、私が兵庫県に生まれてなければまた東京という単語の意味も変わっていたのかもしれない。
ロングインタビューの中で上條先生が「SEX」について答えた箇所。
上條 それは、『SEX』で描きたかったことのひとつが「境界線」だったからです。日本という島国の中に国境線が引かれている状態ってのは興味深いなと昔から思ってたんですよ。(P188から引用)
福生も沖縄も上條淳士作品と関わりが深いのでよく考えてしまうんだが、そう言えばそういう「区切り」をテーマとした作品でもあったのだよね Sex は……。少なくとも私はそう受け取ってる。日本は日本の問題を考えるのが苦手というわけではなくひたすらに事なかれ主義なのだろうと思う。
— 志木 (@k_shiki) 2018年10月4日
私も同じように感じていたので同じようなツイートを過去にしていて、やはり「境界線」だったのだなと。
上條淳士の作風って一言で表すと私の中では「ドライ」なんだけど、思春期の夏の日の乾いた日差しのようなイメージがずっとあって、それは私自身が上條作品と出会ったのがその時期だったというのもあるだろうけど、実際の夏はもっとジメジメとしていて不快だけど、そこから湿気を抜いた夏。
――― この漫画の何がすごいって、総ページ数の半分くらいが、シバとユカリの戦いに費やされているところです。
上條 シバにとってユカリは「最初の男」なんです(笑)。そしてあの長い戦いはシバという格闘家の中の「第一章」なわけで。シバはユカリのほかに城島というライバルがいるけど、城島とはこの先プロの世界で何度か拳を交えることがあるかもしれない。でもユカリは、あの戦いのあと能の世界に戻る人だから、二度とシバと戦うことはないし、それゆえに、シバの中で生涯忘れられない強敵になるわけです。だから彼らの戦いを見ている友人たちのリアクションも含めて、あそこはあれくらい長々と描く必要がありました。(同P189から引用)
そして私が上條作品の中で一番好きな「赤×黒」について。このインタビューを見て、私がこの作品に惹かれるのは当たり前ですよねと思いました。上條先生はその文脈では描かれていないけど、これって大河BLの文脈と似てるんですよね。まぁ大河BLというのは完全に造語なんですけど、BLをたくさん読んでいる人には雰囲気を掴んでいただけると思う。
こいつまた言うのかという感じだけど、上條先生の大河BL読みてぇ……。いやでも「赤×黒」で充分ですという気もするし、「8」の新作も見たいし、「今の」東京の話でもいいし、なんでもいいから読みたい。
小説の装丁絵ももっと見たい。文章との距離感が絶妙で世の中のすべての小説の装丁が上條淳士だったらいいのにと思うくらい。
最後に上條淳士作品集「東京」は風景を切り取る作風が好きな人にはまんべんなく満足こと間違いなしなので、ぜひとも多くの人に手にとっていただきたい。