諦めない男へ送る手紙【白出茂】

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:消えた諦め 必須要素:800字以内 制限時間:1時間 文字数:665字


 その男は諦めない男だった。
 私の何が気に入ったのか文を寄越してくる。
 何処で所在を知ったのかと思えば、小松田くん経由しかないわけでご面倒なことだ。

 書かれてあることは情緒や粋な言葉があるわけもなく、日々の出来事や時間があれば立ち寄って欲しいなどということばかりだ。
 こう言ってはなんだが、私には人に好かれるようなところはないはずである。
 しかし毎度毎度「鹿之介さんのことを思うと希望が湧いてきます」などという一文を添えてくる。私にどうしろというのだ。

 そしてどう返事を書けばいいのかわからないまま、次の文が届いてしまうということが続いている。
 そんな不義理な私のことなど忘れてくれればいいものをこの諦めない男は定期的に文を送り付けてくる。

 私は文を書くのも得意であるはずなのに、この男に何を書いていいのかわからない。
 今、目の前には真っ白のままの紙と墨をつけたままの筆が置かれている。
 面と向かえば出てくる言葉はたくさんあるだろう。相手の応えもあるのだから優秀な私のことだ卒のない応えができるはずである。
 しかしいつもは滑らかに出てくるはずの文章が出てこない。

『井鼃不可以語於海者、拘於虛也。夏蟲不可以語於冰者、篤於時也。曲士不可以語於道者、束於教也。今爾出於崖涘、觀於大海、乃知爾醜。爾將可與語大理矣。去见 』

 今の私には故事成句を引っ張り、暇があれば会いに行く旨を書くのが精一杯だ。
 これで伝わればいいが、恐らく伝わらないだろう。今はそれでいい。それくらいの抵抗はさせて欲しい。


最後の漢文は出鱈目なので見なかったことにしてください。恐らく鹿之介は漢文を書けるだろうけど私は漢文を書けないので。

関連エントリー