希望という貴方へ送る手紙 【白出茂】

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:1000の妄想 制限時間:1時間 文字数:1169字


 出茂鹿さんへの便りを書くのは何通目だろうか。

 俺は肝心なときにヘタレで、その度に周りの人達に助けてもらってなんとか乗り越えてきた。
 そんなヘタレな俺だから、出茂鹿さんに会いに行く勇気はとてもなくて、でも、せっかく出来た繋がりを失いたくなくて何とかしたいと考えていたら、便りを書けばいいんじゃないかと思いついた。
 兄貴達にも相談したら「悔いの残らないようにやれ」と言われたので、その言葉を信じて便りを書くことにした。とは言っても何を書けばいいのかわからず、出茂鹿さんのことを思い浮かべながら拙いだろう言葉を紡いだ。

 出茂鹿さんは俺と違って泳ぎも達者で船酔いもしない。小柄な体躯と勝ち気な眉。言葉遣いは知性に溢れ丁寧だけど攻撃的で内に秘める執念を感じる。その割にはその眼差しはどこか寂しげで憎めない何かを残した。思えばあれは一目惚れだったのだと思う。どのような身の上かなどわからないし、今の生活すら知らないけれど、夕暮れ時の大海原を見ていると思い出すのは最後に見た言葉に出来ない彼の微笑だった。

 だから素直に「鹿之介さんのことを思うと希望が湧いてきます」という言葉を書いた。
 今まで禄に便りなど書いたことはないから恐らく出茂鹿さんが見たら矢のような嫌味が降ってくる拙い文章と筆跡だろうけど、でも何となくあの人には会って伝えるより便りで伝えるほうがいいような気がした。

 本当は「会いたい、会いたい、会いたいです。今なにをしていますか? 何を考えていますか? 海賊になる気はありませんか? 俺のことどう思ってますか?」―――言いたいことはたくさんあるし、出茂鹿さんに知られでもしたら何を言われるかわからない非《あら》れもないことまで考えたり、会えなければ会えないほど高まる感情もあるのだと焦燥に駆られるが、そんなことを言ったら、あの人はどんな顔をするだろうか。

 「時間があれば立ち寄って下さい」と末尾に記した手紙に封をして、お世話になった忍術学園から得た彼の元へと便りを送る。




 これで五通目。
 返事を期待していないといえば嘘になるけれど、今まで返事はない。
 この便りで返事がなければ、彼の元へと勇気を出して会いに行こうかとも考えていた。

 そんなことを考えて六通目の便りを書こうか書くまいか迷っている時に出茂鹿さんからの便りが届いた。
 丁寧に封を解き広げると達筆な文字が並ぶ。その文面は難しく俺には全部の意味はわからなかったけど、誰かに出茂鹿さんからの便りを見せる気にもなれず、返事が来たという喜びと恐らく嫌われてはいないという事実にますます希望が湧いてくる。

 返事には素直に「難しくて全部の意味はわかりませんが、これが読めるようになる頃にはきっと貴方に会いに行きます」と書こうと思う。


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