諦めない男と探している男 【白出茂】

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:馬鹿なエデン 制限時間:1時間 文字数:887字


 理想などというものは理想に留めておくべきものだ。
 平穏というものは常に身近に置いておきたいものだ。
 そしてどちらも何処にでもあって何処にでもないものには違いない。

「出茂鹿さんは一目惚れってしたことあります?」
 鹿之介の横に立つ白南風丸が鹿之介の横顔を見つめながら多少艶のある声で問う。耳に響く低い声。

 時は戌の刻黄昏時。初めての出会いからのち、文のやり取りを何度か交わし、今でも文のやり取りは続いているが、こうやって鹿之介は気まぐれに瀬戸内の浜へ立ち寄っては白南風丸との逢瀬―――本人曰く「ぴよぴよバタ足で泳ぐヘタレ海賊を笑いに来ている」らしいが―――をするようになった。

「いきなり何を言い出すかと思えば……。逆に言うが大抵の色恋はひと目だろう。熟慮に熟慮の末、惚れた腫れたをすると思うか」
「そうですね。そうです」
 白南風丸は照れたような顔を浮かべると相好を崩し鹿之介との距離をそれとなく詰め、肩と肩が触れ合う。

「なんだよ。じっと見て。気持ち悪いな」
「すみません」
 言葉とは裏腹に相好を崩したままの白南風丸はそっと鹿之介の右手を掴む。
 鹿之介は一瞬白南風丸の方へと目線を向けたがすぐに元へと戻しなんでもないというような顔をする。

「出茂鹿さん。海賊になる気はありませんか?」
 鹿之介は大きくため息をつく。
「またその話か……」

「俺は本気ですよ。出茂鹿さんと一緒の景色を見たいんです」
「白南風丸……。私はまだ『海賊しかない』なんて思えないんだ。―――それに……私は性格が悪い。まだその『何か』を探しているんだ」

「出茂鹿さん……。俺のことどう思ってます?」
「ヘタレ海賊」
「はは……ですよね……。でも俺、諦めません」
「それは君の長所だな。見習いはしないが」

「あの……今日、まだ時間ありますか?」
「用件を先に言え」
「泊まって行きませんか?」

 

 理想などというものは理想に留めておくべきものだ。
 平穏というものは常に身近に置いておきたいものだ。
 そしてどちらも隣に置いて置きたいし、隣にあるのだと思う。


関連エントリー
コメント投稿
投稿フォーム