波の随に 【白出茂】

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:小説家のパラダイス 制限時間:1時間 文字数:1351字


 白南風丸が私に好意を抱いているのはわかっている。そしてそれが色を含んでいることも。
 しかし「泊まって行きませんか?」と言い出した本人がこの有り様とはどういうことだ。

 飯を食べ、酒を勧め、下らないことで笑い、饒舌になるまではいい。その後のことを先々に考え如何にしようかと考えあぐねてはいたが、ヘタレ海賊は私の肩に寄りかかって落ちかけている。

「おい。白南風丸。寝るのなら布団で寝ろ」
「はい……」
 白南風丸はとうとう私の肩からずり落ち胡座の太腿へと頭を乗せる。
 布団へと抱きかかえて運んでやろうかとも思ったが無駄にでかい図体を考えてやめた。

「君は酒も弱いのか……。弱いのならなぜそんなに飲む……」
 手酌でぐい呑みの酒を口に運びながら、少しだけほっとしている自分に驚きつつ、そんなことはお首にも出さずに呆れ声を出す。

「すみません……でも……」
「ん? でも、なんだ?」

「酒で、勢いでも付けないと、駄目かと思って……」
「勢い?」
「だって、出茂鹿さん……あの……その、つもりで、来て、くれたんでしょう?」

「そのつもり~? なんのこ……」
 そう言いかけて気づく。私も少し酔いが回っているようだ。
「この色南風丸め。気負い過ぎだ!」

「すみません……。でも、今日は出茂鹿さん優しいし、結果的に、膝枕してもらってるし、満足です」
 そんな白南風丸の台詞を耳にして、急に顔が熱くなるを感じる。
 こいつはこいつはこいつはこいつはヘタレのくせにヘタレのくせにヘタレのくせに。

「そうか。でも君がそのつもりなら、そうだな……」
 太腿の上にある白南風丸の頭を外し、横向きから仰向きへと変え、私は膝立ちで白南風丸の胴を跨いだ。
「出茂鹿さん?」
 そして両手を白南風丸の頭の横に置き、顔をぐっと近づける。白南風丸は酩酊した目を開け私を見る。
「ヘタレな君は私を主導するつもりだったのか? どうする?」
「あの……」

「一宿一飯の礼くらいはするぞ?」
 そう言いながら彼の頬へと唇を落とし耳元へと囁く。

 

「おい。白南風丸?」
 何の応えもないことを訝しんで顔を見ると、寝てしまったのか気を失せてしまったのか目をつむっている白南風丸が目に入った。

 寝息を聞いていると寝てしまったようだ。本当にヘタレな奴め。
 遊びのつもりのない相手と酔った勢いでなど私の矜持が許さないが、こいつとならそれもいいかと身体が熱くなった瞬間にこれとは、彼らしいといえば彼らしい。

 上衣を脱ぎ、白南風丸の体にかけてやる。
 白南風丸の規則正しい寝息を聞きながら再び酌を傾ける。まさか白南風丸の寝息を肴にすることがあろうとはわからぬものだ。

 近くで聞こえる夜の波音と白南風丸の暖かい寝息。

『白南風の朝が来たりて天籟に緑深しき色も鮮やか』
『送梅の小露を払う白南風に鬱すれども吹かれよ孟夏と』
 気まぐれに詠み、酌も底を尽きると私にも眠気がやってくる。

 このまま寝ると寒いからな、という自分への言い訳をしてから白南風丸の熱を感じる隣へと寝転がった。

『海賊になる気はありませんか?』か……。
 波音とこの寝息は悪くない。
 あとは『何を』探しているかだ。私は性格が悪いんだ。


関連エントリー
コメント投稿
投稿フォーム