逡巡【白出茂】

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:悔しいドロドロ 制限時間:30分 文字数:647字


  情念が体中を支配する。
 こんな気持ちがあるなんて考えもしなかった。

 もし、出茂鹿さんが俺以外の人を好いていたら……なんて考えたら真っ黒な波が体中を巡り渡る。

 そんなこと当たり前のことなのに。

 偶然見かけた出茂鹿さんと見知らぬ妙齢の女性。
 声も掛けられなかった。
 もしかしたら仕事なのかもしれないし、逢引ならもっと声をかけづらい。

 こんな気持ちのままではいられないと、海に潜ってみたけれど、兄貴達に「溺れているのか泳いでいるのかはっきりしろ」と言われてしまった。

 そんな気持ちを誰にも言えず、膝を立て足を両腕で抱えて座っていると、
「白南風丸」
 という声が聴こえる。

 まったく気配などしなかったのに突然背後から声が聴こえてきて驚くところだけど、この声を聞き間違えるはずもなく、いつもいつも気配を悟らせずに近づいてくる人は一人しかいない。

「出茂鹿さん……」

 顔を見るだけでうれしくなる。
 先ほどまでの鬱々とした気持ちは小さくなり嬉しい気持ちの方が大きくなる。

「相変わらず、のんびりとした顔をしているな」

 そういう軽口ももうたまらなく愛おしくなっているというのに、これで出茂鹿さんが俺以外の人を好いていたらどうすればいいんだろう。

 でも、出茂鹿さんの顔を見た瞬間に、それでもいいんだ……とか思えてくる。
 
 訊いたら答えてくれるのかな。それともはぐらかされるのかな。
 わからないけど、けど、
「あの、出茂鹿さん」――――――


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