【白出茂】それほどの戯れ

ジャンル:忍たま乱太郎 お題:8月のプロポーズ 制限時間:2時間 文字数:1,872字 誤字等修正済み



「俺達には結婚とか関係ないですもんね」
 白南風丸は寂しげに口火を切った。

「したければすればいいだろう」
 関係を持つようになってから幾分と経ち、鹿之介の態度も随分と砕け、二人きりのときは壁を背に胡座をかいた白南風丸の股ぐらの横に入り肩口に頭を寄せるというような座り方も取るようになった。鹿之介曰く白南風丸の肩口の筋肉は頭を押さえるのに丁度いいらしい。

「したければって……相手は鹿之介さんですよ?」
 そんな体勢で寝ているのか起きているのかわからないような気のない返事をする鹿之介に確認するように言い含める。

「わかっている。だからすればいいだろうと言っている」
 鹿之介はにべもない。

「いいんですか?」
「別に水軍には結婚に関する口うるさい決まりもないだろう。そもそもそれほど拘ることでもない」
 嬉しそうに尋ねる白南風丸にずっと同じような口調の鹿之介であるが、鹿之介は恐らく半分眠いのである。

「なんかあっけなくて驚いてます」
「どうしてだ? お互いいつ居ぬるかわからない生業をしているのにそんなに拘ることもないだろう」
「いえ、俺は鹿之介さんを残していぬるつもりはありませんから!」
 きっぱりと白南風丸は言う。こういうときの白南風丸の顔は誇らしげだ。

「相変わらず能天気というか晴れ晴れしいというか……子を成さない結婚なぞ別に誰も拘らないだろうよ……。そもそも私たちは子を成さなければならぬ奴らとは違うしな」
「子なら親の居ぬ子を育てればいいと思います。というか水軍はそうです」

「それもそうだな……君との子育ては悪くなさそうだ」
 その言葉に白南風丸の肩口で気持ちよく微睡んでいた鹿之介もようやく目線を白南風丸の方へ向ける。

「忍に育てますか?」
「商人に育てる。忍などならぬに越したことはない」
「水軍はだめですか?」
「水軍なぞ半分は商人みたいなものだろう。少なくとも将来的にはそうなる」

「鹿之介さんは色々な物事を知っていて凄いですね」
 白南風丸は鹿之介の博学を素直に尊敬しているしそれを態度ですべて表すので、鹿之介もいつの頃からか白南風丸には嫌味を言わなくなった。今でももちろん仲違いをすると暖簾に腕押しとわかっていても嫌味を言ってしまうことはあるが、それも白南風丸には通じないので何の意味もないと学習してしまった。

「知らぬことのほうが多いと知ることが、知らぬことがないという者よりもはるかに知ることが多いのだ」
 だからこそ照れ隠しでこのようなことも言ってしまう。

「ありがとうございます」
 そして白南風丸は鹿之介がこういうことを言うときは照れ隠しだともうわかっているので素直にそれをも表す。
 その答えに、鹿之介は君はそういう奴だよと口角を上げる。

「ん?」
 鹿之介は某かの気配が近づいたのに気づいて障子の先に目をやる。

「白南風丸いるか?」
 足音がしたあと障子の先から声をかけられる。

「はい」
「開けるぞ」
 そういうと水軍の男が障子を開けた。

「ん? 出茂鹿もいたのか」
「出茂鹿之介だ」
 もはやお約束とも言えるやり取り。白南風丸は鹿之介と呼ぶが他の水軍の人たちには今も出茂鹿と呼ばれていたりする。もはや愛称に近い。

「白南風丸。蜉蝣の兄貴が呼んでる」
「はい」
 そう言って立ち上がろうとする白南風丸の動きに気づいて、鹿之介はさっと退いた。

「行ってきますね」
 廊下に出て障子戸に手をかけ、障子を閉める前に後ろ手で振り向きながら鹿之介に声をかけた。

「行ってこい」
 壁に背を寄せ右手を上げる鹿之介。こういうことはよくあるので、いつものやり取りである。

 廊下を歩く二人の足音を聞きながら、「あいつめ……。いつもいつも……」と心のなかで白南風丸との先程のやり取りを反芻する。

 「そんなことは今まで一度も言わなかったくせに、結婚など考えていたとは……。そもそもそんなものに拘るようには見えなかったのだがな……。別にそれ自体は吝かではないがそう言葉にされると急に照れくさくなる」
 なおも心のなかで反芻する。
 「しかも子育てしたいだと」
 そしてそれを内心、悪く思っていない自分に驚く。
 「拘らない私にこれだけ拘ってくるのはお前くらいだよ」
 そう心のなかで呟いて、その場に寝転がった。

 今では水軍館にも出入りを許されてる鹿之介なので、傍からはもう結婚していると見做されている白南風丸と鹿之介なのだが、それを知らぬはその当人たちのみなのである。

 


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