【京主】天気雨

ジャンル:東京魔人学園剣風帖 お題:奇妙なお天気雨 制限時間:4時間 文字数:1312字


 寒い冬はひーちゃんにくっついてもあまり厭われなくなる。
 ま、おねぇちゃん達の薄着が見られる夏の方が活動的にはなれるんだが、ひーちゃんの機嫌は悪くなるし、背中からくっつくとエルボを食らわせられたりするので、冬はひーちゃんを満喫する季節としてそれはそれで重要だ。

「なぁ、ひーちゃん」
「ん~?」
 炬燵にノートパソコンを置き、その前で仕事をしている龍麻を後ろから抱きしめながら話しかける。高校の頃は同じくらいのタッパだったのでこの体制で抱きしめてもひーちゃんの肩がアゴの辺りに当たってしまい不自然な体勢になってしまっていたが、今では俺の方が少し(こう言わないとひーちゃんが怒る)デカくなったので楽々と抱きしめ、ひーちゃんの体温を楽しむことができる。

「それ、いつ終わんだよ」
「ん~? 先に寝ていいぞ?」
 龍麻は一切作業を止めることなく返事をしてきた。
「そういうことじゃなくてよ、俺のこと構ってくれねェの?」
「構ってやる時間があれば構ってやるけどな、今は時間がない」
「またあの亀絡みかョ……」
「そう言うな。アイツはアイツで忙しいんだ。データ解析くらいやってやってもバチは当たらんだろう。散々世話になってるんだからな」

「ひーちゃんとの貴重な夜が……。休みの日くらいイチャイチャしてぇのによ」
「これだけべったりくっついてても足りないのか?」
「足りないな。足りねぇよ。俺はな、ホントはずっとひーちゃんとこの距離で居てぇんだよ。龍麻の背中は俺が守りてぇし、俺の見てねぇところでひーちゃんに何かあったら俺は俺を許せねぇ。でもよ、それじゃどうしようもねぇから《仕方なし》に離れてんだよ」
 ゆっくりしっかりと龍麻に話しかける。
 龍麻にはどうにも「自分より他人」というところがあるが、それは今も変わらない。だからこそ仲間から「守らなければ」と慕われるし、今でも繋がりがあるんだろう。しかしそれにしたって手前を大事にしないキライがありすぎるし、そんなに仲間を大事にするくせに俺には思いのほかぞんざいなのも気にいらない。これは俺のことを「自分寄り」に置いているということでもあるしそれ自体は自慢にも思っているが、そのことと今、俺をぞんざいにしているのとは関係がねぇ。

 しばらく間があき、龍麻からため息が漏れる。
「京一にしてはいい口説き文句だけど……タイミングが悪いな」
 少し顔をこちらに向け俺が何度も「そんな顔すんじゃねぇよ」という顔を向けてくる。その顔は俺の中の熱を吹き飛ばし、あの「戦いの最中」を思い出させる。
「俺はお前を“俺の隣に置いている”つもりだ。だからこうなんだ。わかるだろ? ……と言ってもお前は《わからねぇ》と言ってくるんだろうけどな」
 そう言うと龍麻はパソコンの方へ顔を戻し、さっきよりも熱が帯びた声が響く。

 俺が二の句を継げずにいると、
「京一……。明日が雨ならな、一日付きやってやる」
「ひーちゃん、ずりぃぜ……」
 俺はひーちゃんの肩口に顔を埋める。
 ひーちゃんは雨を降らせることはできないが、雨を呼び寄せることはできる。
「ひーちゃん。好きだ」
 明日、新宿は天気雨。


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