指先に込める力

お題:許せない儀式 必須要素:ポテトチップス 制限時間:30分 文字数:913字


 何事にも儀式ってものはある。
 たとえばポテトチップスの袋を開けるのだってやり方ってものがある。

 ポテトチップスの袋には「開かないときは縦に割いて開けてください」などと書かれているが、そんなものは最終手段であって、ポテトチップスの儀式としては、封入口を力づくで開けたいものである。

 そして目の前の九十八円でスーパーにて購入したポテトチップスはこの儀式通りには行かずに困っているのである。

「ぐぬぬ……」
 声を上げてみても開かない。このままでは最悪、中のポテトチップスが飛び散ってしまうような開け方になってしまうかもしれない。
 それはまずい―――。

 ここはゆっくりと深呼吸をして、精神集中するのだ。
 この袋は絶対に開く、と信じ抜く。そして、力を入れすぎずにゆっくりと力を加えながら両腕を外側へと移動する。この順番で行えば大丈夫なはずである。

 再び。袋を手に取り、両手で袋の上部開封口を握り、力を込めつつゆっくりと、時々力に変化をつけながらじっくりと開く。

 開封口がじわっとでも開いてくれればこちらのものである。

 じわっと開いてくるまでは油断は禁物である。精神を集中して指先に力を込める。

 そろそろ開きそうな雰囲気が指先を通して伝わってくる。
 イケる! そう確信した時、指先に力が加わった。
 開封口が開きかけたと同時に指がすべり、袋が宙を舞う。
 ああ! と思いながらも今まで指先に集中していた手は動かず、目線だけはしっかりと袋を捉えていた。

 ポテトチップスの袋は宙へ舞い、一回転し、地面へと落ちた。
 指先からの距離にして、おおよそ三十センチ。

 回転した際に散らばった内包物であるポテトと落ちた際に散らばったポテトが、落ちた袋の周りに散らばっている。

 なんということだろう。
 儀式は失敗である。
 これではおいしくポテトチップスを食すことなどできない。

 しかし、失敗だだからといって捨ててしまうには惜しい。

 儀式には失敗したが、食すのもまたポテトチップスの開封儀式の形ではないのか―――。

 そう解釈して、床に落ちたポテトを拾い集めながらポリポリと食べはじめた。


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